森林は、私たちの暮らしや環境に欠かせないものであり、様々な恵みを与えてくれます。
森林は木材の生産だけでなく、水の浄化や貯留、土砂災害の防止、さらには地球温暖化防止や生物多様性維持など、多面的な機能を発揮することにより、県民生活に役立っています。このような機能は、森林が健全な状態に保たれることにより発揮されますが、健全な状態に保つためには林業生産活動の果たす役割が重要です。林業は木材の生産の機能だけでなく、森林の多面的機能の発揮に大きな役割を果たしています。
日本学術会議では、森林の持つ機能を【1】生物多様性保全機能、【2】地球環境保全機能、【3】土砂災害防止 /土壌保全機能、【4】水源涵養機能、【5】快適環境形成機能、【6】保健・レクリェーション機能、【7】文化機能、【8】物質生産機能の8つに分け、森林の公益的機能等の評価額を日本全体では、70兆2,638億円、兵庫県では1兆2,310億円と試算しています。
機能の種類 | 兵庫県の評価額 | 全国の評価額 | ||
---|---|---|---|---|
水源かん養 | 洪水緩和 | 1,534億円 | 6兆4,686億円 | |
水資源貯留 | 921億円 | 8兆7,407億円 | ||
水質浄化 | 1,834億円 | 14兆6,361億円 | ||
土砂災害の防止 | 表面侵食防止 | 4,930億円 | 28兆2,565億円 | |
表層崩壊防止 | 1,891億円 | 8兆4,421億円 | ||
地球環境の保全 | 二酸化炭素吸収 | 358億円 | 1兆2,391億円 | |
化石燃料代替資源 | 111億円 | 2,261億円 | ||
保健とレクリェーション※ | 731億円 | 2兆2,546億円 | ||
計 | 1兆2,310億円 | 70兆2,638億円 |
森林の多面的機能イメージ図
(原図は、兵庫県豊かな森づくり課2007年度「災害に強い森づくり」パンフレットより)
評価額【県:4,289億円、全国:29兆8,454億円】
機能項目【洪水緩和、水資源貯留、水量調整、水質浄化】
森林の土壌はスポンジのように隙間がたくさんある構造となっており、森林に降った雨はすぐに川に流れ込まずに地中にしみこみ、ゆっくりと川に流れ込みます。これが森林による流出の平準化作用で、洪水又は渇水の緩和につながります。また、降った雨が森林の土壌を通過することで水がろ過され、浄化されて、「おいしい水」が供給されます。
ところが、渇水期、森林土壌(スポンジ)の隙間が少ない山地では、森林の有る方よりも無い方が、流域からの流出量が大きくなることがあります。これは、蒸発散による水分消失が蓄える量よりも大きいためと考えられていて、森林の水源かん養機能の評価が難しい理由の一例です。
このため、流域森林管理を考える際の基本となる森林と水の関係は、「時代とともに精密化してきているが、まだ科学的にはっきりわかっていない」といわれています。
森林の理水機能の 要素区分 |
科学者 | 思想家・人々 | |||
---|---|---|---|---|---|
大正・昭和初期 | 現代 | 古代 | 江戸期 | 現代 | |
降雨の増加 | × | × | ○ | ○ | × |
流出の平準化 | ○ | ○ | -- | ○ | ○ |
水量減少(蒸発散) | ○ | ○ | -- | × | × |
洪水軽減 | ○ | 大規模△ 中小規模○ |
-- | ○ | 緑のダム論争 |
水源かん養 | 平田・山本の 論争 |
△または× | ○ | ○ | 上流域× 下流域○ |
(資料;恩田裕一ほか「人工林荒廃と水・土砂流出の実態」岩波書店、平成20年10月より引用)
洪水緩和機能イメージ図
(図は、「森からみる地球の未来4-水と土をはぐくむ森-1996年1月文研出版」より引用)
森は水を蓄えて流出を遅らせる一方、蒸発散で水を使う
(図は、「森からみる地球の未来4-水と土をはぐくむ森-1996年1月文研出版」より引用)
評価額【県:6,821億円、全国:36兆6,986億円】
機能項目【表面侵食防止、表層崩壊防止、その他の土砂災害防止、土砂流出防止】
森林の表土は、落ち葉などの堆積物や下草で覆われているため、雨が降ったときに落ち葉や下草がクッションになります(表面侵食防止)。このため、裸地では年間平方キロ当たり千~1万m³(年間1cmから数mmの厚さ)の侵食に対して、山腹緑化施工地では百m³まで低下し、緑化によって森林が回復すると侵食はほとんどなくなります(1/100~1/10,000に減少、図1)。
また、樹木の根が地中に張り巡られていることから、山崩れを防いでくれます(表層崩壊防止)。このことは、有林地は無林地に比べて一定面積当たりの山崩れ数や山崩れ面積が半分になることからも証明されます(表1)。しかし、有林地でも山崩れが発生していることについては、森林の効果が働かない山崩れがあるということであり、その多くは脆弱な地盤に起因する森林の根系のもつ土壌緊縛力がおよばない深い位置での崩壊と考えられます。
表面を侵食する地表流を防止する落ち葉や草
(図は、「森からみる地球の未来4-水と土をはぐくむ森-1996年1月文研出版」より引用)
図1 裸地と山腹緑化施工地、森林地の土砂流出量比較
(原図;鈴木雅一ほか「風化花崗岩山地における裸地と森林の土砂生産量」水利科学190,平成元年より)
森林の根系が地表(A~C層)の崩れを防ぐ
(図は、「森からみる地球の未来4-水と土をはぐくむ森-1996年1月文研出版」より引用)
種別 | 占有面積 (ha) |
山崩 | 100ha当 山崩箇所数 |
一山崩れ 平均面積 |
100ha当 山崩面積 |
|
---|---|---|---|---|---|---|
箇所数 | 面積(ha) | |||||
有林地 | 190,328 | 11,286 | 2,227 | 5.93 | 0.20 ha | 1.17 ha |
無林地 | 19,830 | 2,377 | 398 | 11.99 | 0.17 | 2.38 |
総数 | 210,158 | 13,663 | 2,625 | 6.50 | 0.19 | 1.25 |
(資料;池谷浩「斜面の土砂移動現象」砂防学講座第3巻砂防学会、平成11年より)
評価額【県:469億円 全国:1兆4,652億円】
機能項目【二酸化炭素吸収、化石燃料代替資源】
森林は光合成により、地球温暖化の原因となっている二酸化炭素を吸収し、貯蔵しています。日本の森林が光合成によって吸収する二酸化炭素は年間約1億トンで、これは日本における二酸化炭素排出量の8%、国内の全自家用乗用車の排出する量の約7割に相当します。
二酸化炭素の貯蔵庫、森林
(イラストは、「森からみる地球の未来1-大気と森-1996年1月文研出版」より引用)
森にはぐくまれる生き物
評価額【貨幣換算不可】
機能項目【遺伝子保存、生態系保存、生物種保存】
日本の森林には鳥類、昆虫類をはじめとする多くの野生動物の生息・成育の場となっており、遺伝子や生物種、生態系を保全しています。
―カヤボクから下で本流に入っている小沢にも、もとはイワナがいっぱいいたそうだが今はダメだ、なぜだか判るかい
―みんな獲っちまったんだろ
私はキンサクに応えた。
─ちがうね、育ちの早い黒木を植えたからだ。黒木ばかりじゃ魚がつかないんだぜ
―そういえば温泉場の爺さんも黒木の下の水は渋いから魚はつれないっていってたっけ
─水が渋いことがあるもんか、黒木ばかりだと陽が当たらないから、花の咲く草も木も栄えないんだ、花が咲かないから羽虫がこない、羽虫が卵を生まないから川虫がいない、川虫がいないからイワナが居付かないってわけだ。イワナばかりじゃない、羽虫がいなきゃ鳥もこない。鳥がこなきゃ巣もできない。鳥の糞がなきゃ実のなる木も生えない。巣がなきゃ卵もない。卵がなきゃ蛇もイタチもこない、下草もヤブもないからウサギもいない。だからイワナのいない沢には毛物もいない道理だ。黒木ばかり育てて村の奴は山をダメにしちまうんだ
─じゃブナ平みたいに葉の落ちる樹ばかりのとこがけもの銀座ってわけか
─そこが難しいんだ。ブナやカツラやカンバばかりじゃだめだ明るすぎて。一本ずつそばに黒木があると一番だね。鳥でも毛物でも、ぱっと身を隠せる樹が欲しいんだ。・・・以下略
(原文;辻まこと「画文集 山の声」:東京新聞出版局、昭和56年4月1日第三刷より)
評価額【県:731億円 全国:2兆2,546億円】
機能項目【療養、保健、レクリェーション】
森林は、フィトンチッドに代表される樹木からの揮発性物質により健康増進効果が得られるほか、森林浴、ハイキングなどの野外レクリェーションの場を提供しています。特に、最近では森林の癒し効果を医学的に活用しようという“森林療法(セラピー)”も注目されています。
〔1〕血圧の低下 〔2〕脳活動の鎮静化
〔1〕よりくつろいだ感覚・心地よさを感じる
〔2〕巨木に抱きつくことで心を落ち着かせる効果
〔1〕森の緑;血圧低下・脳活動の鎮静化
〔2〕満開の桜;脈拍が増し、わくわくする
森林セラピーHP( http://forest-therapy.jp/ )より
森林の野外レクリェーション
評価額【公益的機能として貨幣換算不可能】
機能項目【木材、食料(キノコ等)、肥料】
森林は伐ったら植えるという施業をすることで、何度も再生させることができる循環可能な資源です。また、森林は木材生産のほか、木炭、パルプ、山菜、キノコなどを提供しています。
針葉樹 | 広葉樹 | ||
---|---|---|---|
スギ | 建築(柱、梁、板) | ケヤキ(欅) | 柱、梁、和家具、器等 |
ヒノキ | 建築(柱、土台)、風呂等 | サクラ(桜) | 器具(茶筒、細工物)、家具等 |
アカマツ | 和家具、建築(板) | ブナ | 家具、器具、合板 |
クロマツ | 和風建築(板類)、家具、器具 | カシ類 | 道具類(柄等)、建築(欄間、敷居)等 |
森林資源の循環利用
保安林は、水を育んだり、土砂崩れなどの災害を防止したり、美しい景観や保健休養などの場を提供したりする重要な森林を「保安林」 に指定し、このような機能が失われないように伐採や土地の形質の変更などをできるだけ制限し、適切に手を加えることによって期待される森林の働きを維持するための森林です。
兵庫県内にある森林のおよそ3割が保安林に指定されています。
区分 | 総土地面積 (千ha) A |
森林面積 (千ha) B |
森林率 B/A |
保安林面積 (千ha) C |
保安林率 C/B |
---|---|---|---|---|---|
全国 | 37794 | (25,121) 17,283 |
(66.5%) 45.7% |
(11,763) 4,999 |
(46.8%) 28.9% |
兵庫県 | 840 | (562) 532 |
(66.9%) 63.3% |
(189) 164 |
(33.6%) 30.8% |
また、保安林の指定・解除の権限については、民有林のうち国土保全の根幹となる重要流域にある流域保全のための保安林(水源かん養保安林、土砂流出防備保安林、土砂崩壊防備保安林)と国有保安林は農林水産大臣、その他の保安林は知事になっています。
保安林は、水源のかん養、土砂の災害の防備、土砂の崩壊の防備等それぞれの公益目的の達成のために指定され、その種類は17種類になっています。
降った雨を蓄え、ゆっくりと川に流すことで、洪水や渇水を緩和する働きがあります。
樹木の根と地表を覆う落ち葉や下草が、雨などによる表土の浸食、土砂の流出、土石流などを防ぎます。
地盤の不安定な急傾斜地の崩壊を防ぎ、住宅屋、農地、道路等を守ります。
砂浜などから飛んでくる砂から背後地の耕地や住宅を守ります。
強い風から背後地耕地や住宅を守ります。
塩分による農作物被害や津波、高潮による被害を防ぎます。
かんがい用ため池等の水が枯れるのを防ぐとともに、きれいな水を供給します。
なだれの発生を防ぎ、なだれが発生した場合にはその勢いを弱め、被害を防ぎます。
落石を斜面の途中で止めたり、樹木の根によって岩石を安定させたりし、被害を防止します。
燃えにくい種類の樹木を配置し、森林火災の延焼を防ぎます。
流れ込む水の汚濁を防いだり、養分の豊かな水を供給するなどの働きで、魚の棲息や繁殖を助けます。
船の航行の目標となって安全を確保します。
森林レクリェーションの場を提供する、空気を浄化する、騒音を緩和する等により生活環境を守ります。
名所旧跡や趣のある景色などを保存します。
保安林の種類と働き
古くは、海面に森林の影が映ることなどにより魚が集まる効果(魚つき)に着目し、海岸斜面に存在する森林を魚つき林と言っていたが、近年では、海岸部に存在する森林ばかりでなく、生態系としての森と海のつながりという観点から森林の機能が再認識されている。
(EICネット〔環境用語集〕より抜粋)
保安林の種類 | 国有林 | 民有林 | 計 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
面積 ha | % | 面積 ha | % | 面積 ha | % | |
1 水源かん養保安林 | 21,591 | 87.0 | 125,153 | 76.3 | 146,744 | 77.8 |
2 土砂流出防備保安林 | 3,025 | 12.2 | 30,977 | 18.9 | 34,002 | 18.0 |
3 土砂崩壊防備保安林 | 9 | 0.0 | 4,727 | 2.9 | 4,736 | 2.5 |
4 飛砂防備保安林 | - | - | 16 | 0.0 | 16 | 0.0 |
5 防風保安林 | 37 | 0.1 | 19 | 0.0 | 56 | 0.0 |
6 水害防備保安林 | - | - | - | - | - | - |
7 潮害防備保安林 | - | - | 18 | 0.0 | 18 | 0.0 |
8 干害防備保安林 | 23 | 0.1 | 263 | 0.2 | 286 | 0.2 |
9 防雪保安林 | - | - | - | - | - | - |
10 防霧保安林 | - | - | - | - | - | - |
11 なだれ防止保安林 | 6 | 0.0 | 282 | 0.0 | 288 | 0.0 |
12 落石防止保安林 | - | - | 55 | 0.0 | 55 | 0.0 |
13 防火保安林 | - | - | 37 | 0.0 | 37 | 0.0 |
14 魚つき保安林 | 2 | 0.0 | 1,032 | 0.6 | 1,034 | 0.5 |
15 航行目標保安林 | 9 | 0.0 | 82 | 0.1 | 91 | 0.5 |
16 保健保安林 | 58 | 0.2 | 1,139 | 0.7 | 1,197 | 0.6 |
17 風致保安林 | 58 | 0.2 | 123 | 0.1 | 178 | 0.1 |
計 | 24,815 | 100.0 | 163,923 | 100.0 | 188,738 | 100.0 |
※面積は実面積である。
保安林は、公益目的の達成のため指定されますが、その目的は限定されています。上表の1~13までは比較的局所的な災害予防、14~15は産業保護、16~17は生活環境及び森林レクリェーションの場の提供や風致の保存等を目的としています。